富倉そばとは
どんな蕎麦なのでしょうか?

ここ「信州 奥信濃」では、はるか昔より現在に至るまで近くの山々に自生する「オヤマボクチ」という植物の葉の繊維をつなぎに使った、大変珍しいそばがございます。それが私たちの暖簾にあります「富倉そば」です。
 
他のつなぎを使用せずに蕎麦粉とオヤマボクチだけを使用することで、蕎麦を噛んだ後の鼻に抜けてくる強烈な蕎麦の香が最大の魅力です。当店には蕎麦通の方々を中心にお年寄りからお子様まで幅広い層の熱烈なファンが大勢いらっしゃいます。
 
またつなぎに繊維を使うために、構造上一切機械打ちができません。そのため、蕎麦打ちは全行程をすべて職人の手による昔ながらの「完全手作業」でおこないます。当然1日に打てる量には限りがあり、この蕎麦が希少である理由の一つとなっております。
 

富倉そばに不可欠な
「オヤマボクチ」とはどんなもの?

 
「オヤマボクチ」とはアザミの仲間で信州の山々に自生している野草です。アザミの花と同様に丸くチクチクするとげのある綺麗な紫色の花を咲かせます。つなぎに使用する葉は大きなもので長さ50センチ程になり、葉の裏側には白い綿毛がびっしりと生えています。この綿毛を丁寧に取り出しておそばのつなぎに使用するのです。
 
「オヤマボクチ」の葉を収穫すると、まず天日に干してから葉脈を取り除き、煮て、洗って、再度煮て、洗い、絞って、ほぐし、乾燥という幾多の工程を経て完全に繊維だけを取り出し、ようやくつなぎとして使える様になります。おそば同様、この作業も全て手作業で行うため、繊維を精製する作業は大変な根気と労力が要ります。

「まぼろしの手打ちそば」と
呼ばれる理由は?

 いにしえの時代より、奥信濃の村人たちは近くの山に自生するオヤマボクチを利用し、秋の山間の畑で収穫したそばの実を石臼で挽き、それらを捏ねて蕎麦に仕立てていました。
 
そのそばの実の収穫を祝う秋祭りでは天狗が舞い、山の神々に感謝を捧げます。祭りには村の人たちが集まり「ハレの日」の特別なご馳走として、この「富倉そば」が振る舞われました。
 
そうやって奥信濃の人々が大切に守ってきたこの「富倉そば」は、今で言う「ご当地物」に当たる、非常に狭い地域社会の中だけで食べつがれてきました。今でこそお店やインターネットで手軽に食べられるようになりましたが、今よりほんの少し前までは、村の外の者が滅多にお目にかかれるようなものではありませんでした。
 
それが富倉そばの「まぼろしの手打ちそば」と呼ばれる由縁なのです。